TECHNICAL TOPICS #001|設備保全を、問題から考える。
転がり軸受の摩擦損失は、軸受形式や荷重だけでなく、グリースの基油、増ちょう剤、添加剤、封入量、運転温度、回転速度によって変化します。そこで今回は、従来のマルチパーパスグリースから高性能グリースへ変更したとき、設備全体の消費電力にどこまで差が現れるのかを、実機A/B試験の考え方から整理します。
QUESTION|まず計算してみてください
15 kWモータで駆動される設備を、同じ生産負荷・同じ回転数で運転したとします。暖機後の平均有効電力は次のとおりでした。
- 従来グリース:11.20 kW
- 候補グリース:10.68 kW
- 年間運転時間:6,000 h
Q1. 電力削減率は何%でしょうか?
Q2. 電流値が同じ割合で低下していれば、「省エネ率=電流低下率」と判断してよいでしょうか?
Q3. 軸受ハウジング温度が6 ℃低下した場合、それだけで摩擦が減った証明になりますか?
Q4. 振動・超音波を同時に測る目的は何でしょうか?
THINK|軸受損失と設備電力を分けて考える
軸受の摩擦損失は、摩擦トルク M と角速度 ω の積で考えられます。
Pf = M × ω = 2πnM / 60
したがって、同じ回転数なら摩擦トルクが下がれば軸受の摩擦動力は下がります。ただし、モータ入力電力には軸受以外にも、ベルト・ギヤ・シール・ファンやポンプの仕事・モータ損失などが含まれます。軸受の摩擦トルクが大きく下がったからといって、設備全体の電力が同じ比率で下がるとは限りません。
2026年のTribology International掲載研究では、深溝玉軸受の摩擦トルクに対し、グリースの基油、増ちょう剤、増ちょう剤量が影響することが実験で示されています。同じ粘度グレードでも基油系統によって摩擦挙動が異なり、グリースを単に「NLGI番号」や「EP性能」だけで比較できないことが分かります。
ANSWER|この例では4.64%
電力削減率 = (11.20 − 10.68) ÷ 11.20 × 100 ≒ 4.64%
年間削減電力量は、
(11.20 − 10.68) × 6,000 = 3,120 kWh/年
となります。仮に電力量単価を20円/kWhとすると、電力量料金だけで年間約62,400円の差です。これはあくまで例示であり、実際の削減額は設備負荷、稼働時間、契約単価、測定位置によって変わります。
5%以上の削減が実機で確認される可能性はあります。ただし「極圧条件だから5%以上になる」と一律には言えません。高荷重になるほど接触部の潤滑状態は重要になりますが、設備全体の省エネ率は、その軸受損失が総損失の何%を占めているかで決まるからです。5%は保証値ではなく、同一条件で実測して初めて評価できる数値です。
ENGINEERING NOTE 1|高性能グリースなら必ず低トルク、ではない
NSKは2026年の技術解説で、軸受の低トルク化には低粘度化や潤滑剤量の低減が有効になり得る一方、油膜が薄くなり過ぎると摩耗・焼付き・剥離につながるため、低トルクと長寿命を同時に成立させる必要があると説明しています。
またSKFのグリース潤滑解説では、初期封入直後は転動体が余剰グリースを撹拌するため、ランニングイン中に大きなチャーニング損失が発生することが示されています。過剰充填では高い摩擦損失と温度上昇が継続する可能性があります。
- 基油粘度と基油種類
- 増ちょう剤の種類とレオロジー
- EP・AW・摩擦調整添加剤
- 封入量・給脂量
- 回転速度・荷重・温度
- シール抵抗と軸受内部すきま
- ランニングイン後の定常状態
ENGINEERING NOTE 2|短時間なら電流、確定評価は有効電力
短時間のスクリーニングとして電流値を見ることは有効です。グリース変更後に、同じ速度・同じ仕事点で電流が安定して低下すれば、摩擦損失低減の兆候として利用できます。
ただし三相交流の有効電力は、理想化すれば
P = √3 × V × I × cosφ
で表されます。電流だけでは電圧・力率の変化を分離できません。さらにインバータ駆動では波形が非正弦となるため、正式な省エネ評価には適切な電力計で有効電力kWまたは積算電力量kWhを直接測定するのが基本です。
ENGINEERING NOTE 3|温度・振動・超音波は「安全確認」の役割も持つ
温度が下がれば、摩擦発熱低減と整合する可能性があります。しかし、周囲温度、負荷、冷却条件、回転数が違えば温度も変わるため、温度単独で省エネを証明することはできません。
振動と超音波は、低トルク化の代償として潤滑不足や油膜不足が起きていないかを見る重要な補助指標です。UE Systemsは、軸受の超音波レベルを基準値からトレンド管理し、給脂不足や過剰給脂の判断に活用する状態基準潤滑を案内しています。
FIELD APPLICATION|実機A/B試験の推奨手順
- 基準状態を整える:芯出し、Vベルト張力、シール、軸受状態、設備負荷を確認する。
- A条件を測る:従来グリースで暖機し、定常後30~60分の有効電力、電流、回転数、軸受温度、振動、超音波を記録する。
- グリースを正しく切り替える:相溶性を確認し、必要に応じて旧グリースを除去する。封入量・給脂量を記録する。
- ランニングインする:チャーニングの影響が落ち着き、温度・電力が定常化するまで初期データを省エネ判定に使わない。
- B条件を測る:A条件と同じ仕事点で同じ項目を記録する。
- 可能ならA-B-Aで再確認する:運転条件の経時変化をグリース差と誤認しないため、再現性を確認する。
最低限そろえたい測定項目
| 項目 | 役割 |
|---|---|
| 有効電力 kW/電力量 kWh | 省エネ効果の主判定 |
| 電流 A | 短時間スクリーニング、変化監視 |
| 回転数 min⁻¹ | 仕事点が同じか確認 |
| 軸受温度 ℃ | 発熱状態と定常化の確認 |
| 振動 | 機械状態・損傷兆候の確認 |
| 超音波 dB/音質 | 潤滑状態・摩擦変化の補助監視 |
実務での判定ポイント
「5%下がった」という数字だけを見るのではなく、測定器の精度、設備負荷のばらつき、回転数、温度、再現性を含めて差が有意かを確認します。また、省エネと同時に振動・超音波・温度が悪化していないことが重要です。
当社では、OMEGAを含む高性能潤滑剤の候補選定を行う場合も、製品名だけで省エネ率を断定せず、設備条件を確認した上でA/B試験による実証を推奨します。
まとめ
グリースの品質・配合差は、軸受の摩擦トルクに影響します。その差が設備電力に現れることも十分にあり得ます。ただし、極圧性能の高さだけで5%以上の省エネを保証することはできません。高荷重・長時間運転で軸受損失の比率が比較的大きい設備ほど、A/B試験を行う価値があります。
重要なのは、「同じ仕事を、より少ない有効電力で行えたか」を、温度・振動・超音波で健全性を確認しながら評価することです。
参考資料
- Wu, P. et al., Friction torque of deep groove ball bearing with grease-lubricated based on kinetic energy deceleration method, Tribology International, Vol.219, 2026.
- NSK, Lubrication Life Formula (Lubrication Pentagon Theory), March 2026.
- NSK, グリース潤滑.
- SKF Evolution, Grease lubrication mechanisms in rolling bearing systems.
- UE Systems, ベアリングの検査と潤滑.
本記事は一般的な技術解説です。個別設備の採用判断では、軸受形式、荷重、回転数、運転温度、給脂量、シール、既存グリースとの相溶性などを確認してください。

