執筆:有限会社ヴェルデ・トレーディング|技術監修:小柳 潤一(代表取締役)|公開日:2026年9月21日
工場設備におけるベルトや軸受の保全は、これまで「適正な張力を管理する」「振動値が上昇したら点検する」といった管理が中心でした。しかし、2026年に公表された研究・国際規格・状態監視技術を見ると、その考え方は次の段階へ進み始めています。
ベルトでは、張力を測るだけでなく、運転中の振動から損傷や異常状態の種類を捉える方向へ。軸受では、損傷が進んでから振動で検出するだけでなく、荷重・温度・潤滑状態・摩擦など、損傷を生む条件を把握する方向へ進んでいます。
保全の焦点は「故障を見つける」から「故障に至る過程を把握する」へ。
ただし、これは張力管理や従来の振動診断を不要にする変化ではありません。正しい据付・張力・潤滑という基礎管理の上に、状態監視と原因分析を重ねる考え方です。
この記事の内容
- ベルト保全は「張力管理」だけではなくなる
- 振動値だけでなく、運転条件も同時に見る
- Vベルトにも「状態識別」の考え方が入る
- 軸受診断も「壊れ始めを探す」から変わる
- 「なぜ壊れるのか」まで原因分析する
- 軸受そのものから運転条件を捉える
- さらに早い段階では「摩擦」を見る
- 今後の設備診断は「3層」で組み立てる
- ベルト・軸受・潤滑を一つの系として考える
- ヴェルデが考える次世代の設備保全
1.ベルト保全は「張力管理」だけではなくなる
Vベルト伝動装置で、適正張力、プーリのアライメントと溝摩耗、ベルトの摩耗、スリップを管理する重要性は今後も変わりません。Gatesの予防保全マニュアルでも、ベルトとプーリの状態、アライメント、張力、周辺軸受の潤滑・取付状態などを一連の点検項目として扱っています。[1]
その一方で、2026年9月14日に公開されたシュトゥットガルト大学の研究は、同期ベルトの歯元クラック、歯の分離・欠損、心線損傷を人工的に与え、運転中のベルト振動から損傷を検出する方法を検討しました。レーザー三角測量センサで振動を測定し、ベルト走行周波数とその高調波から物理ベースの指標を構成しています。[2]
重要なのは、単なる張力不足ではなく、ベルト内部・歯部に生じた損傷を、設備を運転した状態で捉えようとしている点です。保全技術の対象が「取付条件の確認」から「損傷状態の識別」へ広がっていることを示しています。
2.振動値だけでなく、運転条件も同時に見る
同研究では、損傷の有無だけでなく、回転数、トルク、予張力を組み合わせた12種類の運転条件で評価しています。対象は150-5T-10のポリウレタン製同期ベルトで、正常・3種類の人工損傷を各3本用いた計144試験です。[2]
解析指標は運転条件の影響を受け、特にトルクの影響が大きく、研究した損傷は低トルク側で検出しやすい結果でした。したがって、「振動値が高いから異常」「同じしきい値を全運転域に使う」という判断では、誤判定を招く可能性があります。
回転数、トルク、張力、温度などを記録し、同じ運転条件の正常時データと比較することが必要です。また、この結果は特定の同期ベルトと人工損傷による試験です。異なるベルト形式や自然発生損傷への一般化には追加検証が必要であり、そのままVベルトの診断基準にはできません。
3.Vベルトにも「状態識別」の考え方が入る
2026年には、ベルト・プーリ系について、振動、スリップ率、張力の測定値から、正常、ミスアライメント、ベルトスリップ、張力不足を機械学習で分類する研究も公表されています。管理された実験装置で600サンプルを用いた結果であり、実機への適用には設備差・負荷変動・データ品質の検証が必要ですが、複数の測定値から異常状態を区別する方向を明確に示しています。[3]
別の2026年研究では、温度、回転速度、劣化状態を入力とし、分散、平均絶対偏差、エネルギー、ゼロ交差率という振動特徴量をニューラルネットワークで予測しています。固定しきい値だけでなく、運転・環境条件に応じた動的な基準状態を作ろうとする考え方です。[4]
従来の基本フローは、張力を測定し、規定範囲から外れていれば調整するというものでした。今後は、次のように伝動系全体の情報を組み合わせる方向へ進むと考えられます。
張力+振動+回転数+負荷+スリップ+温度
↓
正常時ベースラインとの比較
↓
異常状態の推定
↓
点検箇所と整備内容の決定
Vベルト張力計の重要性は変わりません。ただし、張力値だけで良否を完結させず、伝動状態と損傷の変化を結び付けることが次の課題になります。
4.軸受診断も「壊れ始めを探す」から変わる
軸受の状態監視では、軸受箱などに振動センサを設置し、振動速度、加速度、エンベロープ、FFT、軸受損傷周波数などから異常を判断する方法が広く使われています。これは現在も重要な診断手段です。
2026年8月には、電動機の振動診断に関する国際規格ISO 13373-9:2026第2版が発行されました。かご形誘導、巻線形誘導、突極、直流の4種類の電動機を対象とし、主として15 kWを超える電動機について、実務者向けの段階的な振動診断手順を示しています。[5]
同規格は振動診断の標準であり、電圧・電流などの非振動量による識別・解析は適用範囲外です。したがって、複数センサを統合する場合も、どの規格・手法がどの物理量を扱っているかを区別する必要があります。
5.「なぜ壊れるのか」まで原因分析する
NTNは2026年9月2日、一般産業設備向け状態監視システム(CMS)の提供開始を発表しました。振動データを収集・解析し、設備状態を「正常」「初期損傷」「注意」「警告」の4段階で表示します。[6]
注目すべき点は、異常表示で終わらず、必要に応じて軸受調査やグリース分析による原因分析と改善提案まで含めていることです。振動から兆候を捉えた後、潤滑剤、損傷状態、使用条件を調べ、保全判断へ結び付ける構成です。
ここでは「異常を発見する」ことと「異常が発生した原因を特定する」ことが別の工程として整理されています。予知保全の実効性を高めるには、警報の数を増やすより、原因確認と改善後の再測定までを一つの流れにすることが重要です。
6.軸受そのものから運転条件を捉える
SKFは2026年9月、次世代SKF Insightベアリングを支える統合ハードウェア「SKF Core」と、Senteaとの協業を発表しました。光ファイバセンシングを用い、軸受内部に近い位置から荷重、回転速度、温度、振動などの運転条件を把握する技術です。次世代では、潤滑状態、接触圧、軸受健全性に関する洞察も拡張すると説明されています。[7]
これは、機械の外側から振動の結果だけを見る方法に加えて、軸受が実際に受けている条件をより直接的に把握する方向です。「損傷が起きたか」を推定するだけでなく、「損傷が起きやすい荷重・温度・潤滑条件になっていないか」を見る発想へ近づいています。
ただし、紹介された技術はすべての既設設備へ直ちに適用できるものではありません。対象軸受、取付構造、データ処理、費用対効果を含め、従来の外付けセンサと役割分担を検討する必要があります。
7.さらに早い段階では「摩擦」を見る
軸受損傷の前段階には、潤滑不足、過剰給脂、潤滑剤劣化、異物混入、ミスアライメント、過大荷重などによる摩擦状態の変化があります。この領域では、軸受内部の摩擦に伴う高周波成分を利用する超音波診断が有効な場合があります。
UE Systemsが公開した再循環ファン軸受の事例では、超音波による摩擦上昇が先に現れ、従来の振動加速度が上昇して警報に達したのは約1か月後でした。給脂を繰り返しても超音波レベルが基準へ戻らなかったため、単なる給脂不足ではない問題として調査へ切り替えています。これは一つの事例であり、すべての設備で同じ時間差が得られることを意味しません。[8]
実務上は、超音波は摩擦・潤滑変化への感度を生かしやすく、振動は故障モードと損傷進展の評価に強みがあります。両者には重なる領域もあり、どちらか一方で置き換えるのではなく、同じ測定点・運転条件で傾向を比較し、温度や負荷情報も加えて解釈します。
8.今後の設備診断は「3層」で組み立てる
ベルト・軸受保全は、次の3層で整理すると、測る目的と次の行動が明確になります。
第1層が不十分なままセンサだけを追加しても、根本的な信頼性向上にはつながりません。逆に、第1層だけを定期点検し、運転中の変化を残さなければ、異常の進行を見逃す可能性があります。3層を設備の重要度と故障影響に応じて組み合わせます。
9.ベルト・軸受・潤滑を一つの系として考える
実際の機械では、ベルト、プーリ、軸、軸受、潤滑剤は独立していません。例えばVベルト張力が過大であれば軸受荷重が増え、接触応力や発熱が増加し、潤滑条件も変化します。摩擦が増えれば超音波や温度に変化が現れ、損傷が進行すれば振動スペクトルにも変化が現れる可能性があります。
ベルト張力・芯ずれ
↓
軸荷重・軸受荷重
↓
接触応力・発熱・潤滑状態
↓
摩擦・超音波・温度の変化
↓
損傷進展・振動スペクトルの変化
これは故障進展の一例であり、実機では共振、基礎剛性、アンバランス、電気的要因なども影響します。したがって、一つの測定値だけで因果関係を断定せず、伝動系全体の構造と運転条件を照合することが重要です。
10.ヴェルデが考える次世代の設備保全
ヴェルデ・トレーディングは、単一製品の販売だけでなく、動力伝達 × 軸受 × 潤滑 × 摩擦 × 振動・超音波診断を一つの機械システムとして捉えることが重要だと考えています。
Vベルトの適正選定・張力管理、振動解析、超音波による軸受・潤滑状態監視、高性能潤滑剤、摩擦・表面技術を組み合わせることで、故障してから交換する保全から、故障する条件を抑え、兆候の段階で計画的に対処する保全へ移行できます。
重要なのは、センサを増やすこと自体ではありません。設備の故障モードを想定し、必要なデータを同じ運転条件で測り、原因確認と改善後の再測定までつなげることです。
関連する製品・技術情報
技術上の注記:本記事は研究・規格・メーカー公表情報に基づく一般的な技術解説です。同期ベルトの研究結果をVベルトの損傷診断基準として使用するものではありません。機械学習研究の精度は各研究の実験条件によるもので、実設備での性能を保証しません。点検・測定・調整は、設備メーカーの指示、安全手順、動力遮断およびガード条件を優先してください。
参考資料・出典
確認日:2026年9月21日。本文中の番号は下記の原資料に対応しています。
[1]Gates Corporation
Preventive Maintenance Manual
ベルト駆動の安全、点検、プーリ、アライメント、張力および関連機器の保全手順を参照。
[2]Häderle, P. & Dazer, M.
Vibration analysis for condition monitoring of synchronous belts during operation
Engineering Research 90, Article 29(2026年9月14日公開)。同期ベルトの人工損傷、走行周波数高調波、運転条件の影響を参照。
[3]Sivathanu, A. K.
Machine learning based predictive maintenance framework for belt-pulley systems
2026年7月26日オンライン公開。正常、ミスアライメント、スリップ、張力不足の分類研究。
[4]Genna, S., Moretti, P. & Almonti, D.
Artificial neural networks for predictive maintenance: fault prediction in belt drive systems
The International Journal of Advanced Manufacturing Technology 144, 4177–4193(2026年4月20日公開)。運転・環境条件と振動特徴量の予測を参照。
[5]International Organization for Standardization
ISO 13373-9:2026 — Diagnostic techniques for electric motors
第2版、2026年8月発行。電動機の振動診断手順と適用範囲を参照。
[6]NTN株式会社
産業設備向け状態監視システム(CMS)の提供を開始
2026年9月2日発表。4段階表示、軸受調査、グリース分析、改善提案を参照。
[7]SKF
SKF advances Insight bearing technology through collaboration with Sentea
2026年9月8日発表。SKF Core、光ファイバセンシング、荷重・速度・温度・振動、潤滑状態・接触圧への展開を参照。
[8]UE Systems
OnTrak Wireless Detects Bearing Faults Earlier Than Vibration Monitoring in Recirculation Fans
2024年11月15日公開の事例。超音波による摩擦上昇と振動加速度警報の時間差を参照。

